国立がん研究センターでは、患者さんに現在の最善の治療を提供すると同時に、より優れた新しい治療法の開発のための研究を患者さんのご協力のもと重点的に進めています。このような研究は、がんの治療の進歩には欠かすことができないものです。患者さんに試験的に新しい診断法や治療法を試みることを「臨床試験」と呼びます。
どうやって新しい薬が生まれるのでしょうか?
実験室の研究で、がん細胞に効果のある「化合物」が見つかったとします。これをすぐに薬として使っても良いでしょうか?
患者さんに薬として使うためには、安全であり、有効でないといけません。はじめて人に使う前には、いろいろな研究でその「化合物」が安全であるかを調べます。そしてまずは人に安全に投与できるかを試します。どんなにがん細胞に効果があっても、危険な薬では使えません。
次に「化合物」が本当に人の中にあるがん細胞に効果があるのかを調べます。残念なことに、実験室で効果があっても、体の中にあるがん細胞にはまったく効かないことが多いのです。
こうして「化合物」が「薬」に近づいていきます。安全と有効なだけでは、まだ不十分です。いままでに多くの薬が発売されています。新しい薬(特に抗がん剤)は、いままでの薬と比べて有効であることが必要です。
このように「化合物」が「薬」となり、皆さんに使うようになるまでには、何段階かの研究が必要です。「化合物」のうち、数万個に1つしか、実際の薬にはなりません。そして、これらの研究は患者さんのご協力なくしては行うことはできません。すべての薬は、このような研究に患者さんが協力して下さって使えるようになりました。
臨床試験は安全ですか?
私たちは安全を最優先に行っています。新しい薬の場合には、思わぬ副作用も出るかも知れません。これを少しでも回避するために、少ない用量から徐々に開始することもあります。また普段より長めに入院したり、多めに来院していただくこともあります。また、他のご病気をもっていたり、体調の悪い方には参加をご遠慮いただいています。
また国内外のルールを厳守して、参加いただいた患者さんへの不利益が最小限になるように配慮しています。
臨床試験は誰でも参加できますか?
患者さんの安全を最優先するために、臨床試験、とくに治験は、他に大きな病気がなく、体調の良い患者さんだけを対象にしていることが多いです。他の病気がある場合には、新しい薬が、がんではない病気を悪化させる可能性を心配しています。体調が悪い場合には、新しい薬による少しの副作用によっても大きな副作用がでるかもしれません。
自分が臨床試験に参加できるかどうかは、ここを参考にしてください。自分では分からないことがあったらば、担当してくださっている現在の担当医に聞いてみて下さい。
どうすれば臨床試験に参加できるか?
臨床試験はすべての医療機関で出来るものではありません。通っていらっしゃる病院や近くの病院で行われているかは、その病院やがん相談支援センターにお伺い下さい。
当院での参加をご希望の場合は、当院をご受診下さい。一般診療でご予約いただくか、セカンドオピニオンでご受診下さい。セカンドオピニオンは保険診療ではありませんが、ゆっくりと時間をかけてご説明することが出来ます。
また当院を受診の際には、いままでの経過、治療が分かるように資料をご用意下さい。現在の担当医にお願いされる際に、下記をお渡しいただいてもけっこうです。治療の詳細な経過をご自身が把握されていればその資料でもけっこうです(その際には、当院での再検査などが増えることがあります)。
臨床試験の種類
治験 | 新しい薬が治療薬(抗がん剤)として使えるようにする研究 |
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医師主導臨床試験 | 市販後の薬の投与方法や、薬剤毎の比較を医師が計画して行う研究 |
臨床試験の段階
薬や治療方法を安全かつ有効と分かるまでには、何段階かの研究が必要となります。これらは、第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験と読んでいます。
第Ⅰ相試験 | 主に副作用の種類と程度を目安にして新薬を少ない量から徐々に増やしていき、治療にちょうど良い投与量を決定します。 |
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第Ⅱ相試験 | 第Ⅰ相試験で決定した投与量での効果と副作用を検討します。 |
第Ⅲ相試験 | 新薬を含む治療法が従来の治療法より本当に優れているかどうかを最終的に評価します。 |
下記を満たしていても、医師が試験への参加を不適当と判断することもあります。
参加できる条件
- 治験への参加について十分な説明を受け、文書で同意している
- 年齢が20歳以上である
- 全身状態が良好で、日常生活にほとんど支障がない
- 骨髄・肝臓・腎臓などの主要臓器機能が保たれている
参加いただけない条件
- 以前の治療の副作用から回復していない(軽度のものであれば問題ありません)
- 他の疾患を合併している(高血圧、高脂血症、軽度の糖尿病などは可能な場合が多いです)
- 他の重篤な肺疾患を合併しているか、その既往がある
- 以前の治療や他の治験段階の薬・医療機器の使用から14日以上経過していない
- 最近、輸血や造血因子製剤を使用していない
- 治験期間中に手術が予定されている、または以前の手術の創が治癒していない
- 妊娠中及び授乳中の女性である
- 治験期間中及び治験薬最終服薬から3カ月間の避妊に同意しない
- B型肝炎ウィルス抗原が陽性、又はC型肝炎ウィルス抗体、エイズウィルス(HIV)抗体のいずれかが陽性である
- 脳や脊髄への転移による症状がある
- 重い薬物過敏症の既往がある
- 感染症から回復して14日以上経過していない
- 他のがんを合併している